INTRODUCTION
    


実験室から見える学内の眺望


「研究室人事異動」

 学生の間で”無機研”と呼ばれている当研究室は、学科組織の再編に伴う講座の改編(大講座化)により、工業無機化学講座→材料開発学講座→機能物質化学講座とその正式名称が変わってきましたが、研究室の基本的なかたちはそのまま継続しています。

 研究室のスタッフは、過去10年程度に限ると、平成2年に木島剛教授、平成4年に町田正人助教授、平成7年に矢田光徳助手が着任し、平成元年からは大栄薫教務員が加わっています。

 しかし、平成11年の学科改組に伴う人事で助手に昇任した大栄薫教務員が翌12年4月に資源環境化学講座に移り、同年12月には矢田光徳助手が佐賀大学理工学部講師に転出しました。さらに同15年4月には町田正人助教授が熊本大学工学部教授に転出し、代わって同15年10月に九州大学大学院総合理工学研究院より酒井剛教授が着任しました。

 卒業生の中には里帰り先を失ったような思いを抱いている方もおられることと思いますが、現在は、終身雇用制の崩壊にみられるように、世の中が音をたてて変化する時代であり、大学が組織として流動性を高め、活性化を図ることは外から求められているところでもあります。
 

 


宮崎大学工学部棟

 

「研究活動」

 これまで「セラミックスの創製と応用」を共通項として、木島剛教授グループと町田助教授グループの2つに分かれて研究活動を行ってきました。
 
  木島グループでは、分子認識、分離、ナノ反応場、超伝導などの機能を有する無機/有機ナノ複合材料、層状および多孔質セラミックス材料等、ナノテクノロジー分野への応用を目指した新物質の合成と物性評価に関する研究を行ってきています。 
  中でも、80年代から取り組んできた無機/有機超分子組織体に続いて平成5年から始めたメソ多孔質材料に関する研究は、矢田助手の参加を得て着実に成果をあげ、平成12年度後半に合成に成功した希土類酸化物ナノチューブは、学会でのトピックス講演に選定されるなどの期待を集め、発光材料等への応用に向けた研究をさらに進めています。
 
  希土類系に続いて、平成13年にはフェノール系高分子ナノチューブを合成し、さらに翌14年度にかけて2種類の界面活性剤を用いる複合鋳型法という従来にない独自の手法を開発し、外径 6nm、内径 3nmの白金族ナノチューブを合成することに世界で初めて成功しました。
  この白金ナノチューブの発見は、学会でのハイライト講演に選定され、日経等の新聞でも取り上げられました。
 
  このような新規素材が短期間に相次いで見つかるのはそうあることではなく、折からの米国での炭素菌事件になぞらえて「研究室にチューブ菌がいるのでは」という冗談を口にしたくらいです。

 とはいっても全くの偶然の産物という訳ではなく、過去の実験結果を踏まえヒントにした反応系(化合物の組み合わせ)の選択、担当者段階での知恵と工夫、そして獲物をねらう目的意識、ナノ物質の観察眼、これらが有効に働いた結果として見つけだされた、裏を返せばそれ以前の研究を含めてどれが欠けても闇に消えたはずの“研究室あげての成果”であるように思います。
 
   
これらの新素材および関連する材料は、高比表面積で、DNA分子1個分程度の穴と原子数個分の壁厚をもち、各々、高性能電極・触媒、物質の分離・貯蔵・イオン伝導路、新規な発光体、さらには電気二重層キャパシタとして機能することが期待されます。
 
  このため、研究課題「高機能ナノチューブ材料の創製とエネルギー変換技術への応用」が、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・藤島領域「エネルギー高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」に採択され、現在、「複合鋳型法を確立し、プロトン伝導性・高誘電性・水素貯蔵能等を有する新規ナノチューブを創製すると共に、これらの素材を活用した燃料電池用の白金族ナノチューブ担持電極とナノチューブ状高分子電解質、高容量電気二重層キャパシタを開発する」ことを目指して研究をスタートさせました。
 
 これらの目的を達成するためには幾多のバリアを乗り越えることが必要ですが、世界に向けた新素材・新技術の発信を期して研究に取り組んでいます。
 
  触媒化学と電気化学に通じた酒井助教授の着任を得て、新規素材の燃料電池等への応用研究に向けた共同研究を推進することになり、さらに研究室としては高性能半導体ガスセンサの開発という新しい研究領域が立ち上がりました。
  また、分子鋳型法によるナノカーボン材料の合成、生分解性ポリマー・無機ナノコンポジット材料の創製と力学特性評価に関する研究なども行っています。