糖鎖の生理機能(分子形態、分子集合状態、と分子認識)

LAST UPDATE: 11.18.2009

細胞表面糖鎖の多様な生理機能
(「”糖鎖 T.糖鎖と生命”永井克隆編、東京化学同人、p.4」より許可を得て掲載。オリジナル図より変更。)

糖鎖が生体内で担う役割はおおよそ三つに分類される

 生体高分子は、核酸、タンパク質、そして糖質に分類されます。なかでも、糖質分子は、極めて広範囲にわたる多彩な生物機能に関与することが知られいます。 この糖質分子の生理機能は、以下の3つに大別することができます。

1.生体の構造材料

高等植物の細胞壁主成分であるセルロース、および昆虫や甲殻類の外殻物質を構成するキチンのような 糖質分子は、生体の形態を維持し保護する機能を持ちます。 細菌が菌体外に生産する糖質分子のように、 細菌自身の生育環境を維持する役割を担うこともあります。

2.エネルギー貯蔵物質

デンプンやマンナンのように、植物のエネルギー貯蔵源として機能する糖質分子があります。 人間を始めとする一部の動物は、 芋や穀類に含まれるこのタイプの糖質分子を摂取することで エネルギー源としています。 動物の場合、肝臓に貯蔵されるグリコーゲンが同様の働きをする糖質分子です。

3.情報性分子(上図を参照)

糖質分子のなかには、タンパク質や脂質と結合している複合糖質と呼ばれるものがあります(前ページのG2M9糖鎖がそれに相当します)。 特に、細胞表面の複合糖質は、その糖質部分(糖鎖と呼ばれます)が特定の タンパク質や別の糖鎖と結合することで、他の分子や細胞に情報を伝える情報性分子としての機能が知られています。 この現象は、抗原−抗体反応、微生物−宿主相互作用、細胞の分化・接着、および生理活性物質の 受容体、等の重要な生理機能と関係しています。

 単糖分子が多数結合して、分子量の大きな高分子化合物に相当する糖質分子を多糖類と呼びます。多糖類の多くは、1)或いは2)のいずれかの機能に関係しています。 3)で述べた糖鎖は通常、十数個程度の単糖分子が結合した大きさですが、さらに、糖鎖によっては幾つかの枝分かれ構造を持ちます。


どちらかと言えば糖鎖は化学的な性質よりも固有の分子形態によって機能を示す

 カルボキシル基、硫酸基やアミノ基を持つ一部の単糖を除き、多くの単糖は中性糖です。また、アミノ酸と異なりチロシン、フェニルアラニンやトリプとファンのような 芳香族を持つ単糖は見つかっていません(と思います)。つまり、たんぱく質と比べて糖鎖分子は一般に化学的に不活性 な生体分子に相当します。一方、単糖分子は水酸基をむやみに多く持ち、極性の高い分子であるため、分子内、分子間で(特に、水溶液中では周囲の水分子と) 複雑な水素結合を形成する能力を持ちます。

 多くの糖鎖は化学的活性によって生理機能を示すのではなく、糖鎖の機能性は、分子形態(立体構造)と水素結合によって支配される分子間相互作用を によって発現されます。その分子間相互作用とは、適当に近くの分子同志がくっつくのではなく、相手と場所を選んだ特定の相互作用を発生する”分子認識” になります。