セルロース学会より林治助賞をいただきました

LAST UPDATE: 10.12.2014

 このことについては別のページでPDの宇都君が紹介してくれています。故林治助先生(北海道大学名誉教授)の基金による本賞は新進の若い研究者の方が対象と思っていましたので、推薦のお話を頂いたときは”自分でいいのだろうか?”というのが正直な感想でした。それでも、キチン・キトサン研究に見切りをつけて、これまで食わず嫌いをしていたセルロース分野に参入してからようやく10年目という時期でしたので、この分野では新人かなと自分を納得させました。
 研究成果に対する外部評価の具体的な例として、論文引用、研究費、そして受賞が挙げられます。一番、縁遠いと思っていたのが学会からの受賞でした。ちなみに、大学で一番重要視されるのは、これまた筆者にとって縁が薄い2番目の資金獲得です。博士課程の指導教員だったA.Sarko教授から頂いたお祝いの言葉の中に、"Hopefully, the funding situation will now improve."とありました。他の言葉は素直に拝領しましたが、これだけはそうも問屋がおろさないようなので複雑でした。
 受賞の正式通知は6月の下旬でしたが、それから、ときおり受賞講演の構成を練っていました。もとも、当初は”限られた時間で何を伝えるべきか?”に悩んでいましたが、後の方になると”ここでうけるかな?”というようにネタを作っている状態になりました。今年は、従来の賞状と賞金に加え立派な盾までいただきました。さらに、後日、研究室の学生諸君から豪華な記念品もいただきました。
 分子シミュレーションは、具体的に分子の描像を与えます。そして、軌跡を解析すれば、様々な物理量が評価できます。けれども、実際の分子系のrepresentativeな状態が再現されていない限り、これらは単なる数字です。限られたシミュレーションを基にあれこれ解析して、色んなことが明らかになったように書かれているけど、実際は何も解明していない、というような論文が結構あります。今回、受賞対象となった論文は、いずれも、計算モデルデザインや条件を変化させて、ある現象が必ず再現されることを確認したうえで、それでもあまり大風呂敷を広げず、限定的なことしか結論として述べていません。但し、そのような結論がセルロース結晶構造の本質的な特性を示唆しているのではないかという自負はありました。
 我が国のセルロース学会は、応用研究だけでなく、セルロース科学の基礎研究において世界的な成果を挙げられている偉大な研究者が何人もおられます。そのような皆さんにいくらかでも認めていただいたということが、最もうれしく思うところです。残念なことに、セルロース分野に関わった期間が浅く、北大出身者でもない筆者は故林治助先生との面識はありません。ただ、大学院生時代、留学に向けてA.Sarko先生の論文を読み漁っていたとき、当時(80年代)、唯一のSarko先生との日本人共同研究者として林先生のお名前を見つけたことを覚えています。それから、30年の期間を経ての御縁ということで、感慨深いものはあります。